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第九話 やかんになった副団長

last update Last Updated: 2025-08-07 08:00:00

九話 やかんになった副団長

レイング事をよく知らない俺は画面を確認し彼のプロフィールを見る。そこには攻略対象を示す記載が記されていた。

【レイング・ハウン 21歳

ミラウス城 騎士団副団長

スキル不明

一定のシナリオにしか出現しない

旅を通して彼との交流度を上げる事でシナリオの追加が可能】

こうして見ていると、どうしてもレイングは21歳には見えない。どこか影があるのは勿論、大人びた風貌が俺よりも年上にしか見えなかった。それも騎士団副団長とは驚きだ。本来なら俺に付き合っている暇はないだろう。それなのに自分から立候補したとは、二重にも三重にも驚いてしまう。

「彼は自ら志願したのですよ。珍しい事です」

城を出る前にプロウが言っていた事を思い出しながら、彼の背中を見ている。どうしてだかレイングとは初対面のような感じがしない。気のせいなのは理解している。プレイヤーは俺だけなのだから。自分の知り合いがメモリアルホロウにいる訳がない。ぐちゃぐちゃになりそうな頭の中をリセットする為に、深呼吸をする。

彼が何を思い志願したのか、俺には分からない。背中から這い出ていく暗闇に埋もれながら、俺に助けを求めている。一瞬、おかんが走った。弱い気持ちを振り払うように、止めていた足に力を入れ、動かしていく。

半日歩いていると時間がどれだけ経過したのか把握する事が出来ない。このままゆっくりと進んでいていいのだろうか。期限は三日だ。ラウジャの呪いが彼の身を滅ぼすのはあっと言う間だろう。声をかけにくい雰囲気を漂わせているレイング。彼に言葉を向けるのには、何故だか勇気が必要になっている。

俺と彼以外は、自然しか残されていない。明るかった太陽も影に落ち、夕日へと移り変わっていく。その様子が幻想的で、美しく感じていた。現実世界でいた時の自分は、こんな些細な事にも感動する事はなかっただろう。日常を手放す事によって、この当たり前が非日常化していくのかもしれない。そう思うと、新しい発見が出来たんだ。

「こんなにゆっくり
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